商売をしていると、どうしても「売上」に目が向きます。
「今月は売上が上がった」「去年より下がった」「この商品は売れた」「この商品は売れなかった」「うちの商品は良い」「競合の商品より品質が高い」。
もちろん、どれも大切な情報です。しかし僕は、こうした見方だけで事業を判断するのは、かなり一次元的だと思っています。
事業が本当に成長しているのか。その会社にはどんな強みがあるのか。その強みは市場の中で意味を持っているのか。そして、その強みを活かした戦い方ができているのか。
そこまで考えて初めて、商売は立体的に見えてきます。
僕の中には、売上 < 利益 < 事業価値という考え方があります。
売上が大きいことより、利益が残ること。そして今利益が残っていることよりも、これからも利益を生み、成長していける事業であること。
事業を見るうえで本当に大切なのは、この「事業価値」ではないかと思っています。
ビジネスモデルはたくさんある。でも「強み」は3種類しかない
世の中には、細かく分類すれば無数のビジネスモデルがあります。
小売、卸売、メーカー、サブスクリプション、広告、仲介、フランチャイズ、マーケットプレイス、コンサルティング、受託、SaaS、D2C。
挙げていけばキリがありません。
しかし、「なぜその事業が他社より強いのか」という視点で突き詰めていくと、僕は強みは大きく3種類しかないと考えています。
たくさん売る。
高く売る。
安く仕入れる。
この3つです。
「安く仕入れる」には、商品の仕入価格だけではなく、広い意味での経費も含みます。人件費、広告費、物流費、家賃、外注費、システム利用料、そして業務にかかる時間。
同じものを同じ価格で販売していても、他社より少ないコストで提供できるなら、それは立派な強みです。
つまり、他社よりたくさん売れる。他社より高く売れる。他社より安く提供できる。
事業の強みは、究極的にはこのどこかに表れてくるのではないでしょうか。
あなたの事業は、どれにあてはまりますか?
「他社より」がなければ、強みとは言い切れない
ここで重要なのが、「他社より」という言葉です。
「商品力があります」「接客には自信があります」「品質にはこだわっています」という言葉はよく聞きます。
しかし、それだけでは事業の強みかどうかは分かりません。競合も同じように品質へこだわっているかもしれませんし、競合の方がさらに高い接客品質を持っているかもしれません。
強みとは、自社の中だけで決めるものではありません。市場の中に置いたときに初めて強みになります。
品質が高いから、他社より高価格でも選ばれる。営業力が高いから、他社より多く販売できる。業務効率が高いから、他社より低コストで提供できる。
ここまでつながって初めて、「事業としての強み」が見えてきます。
一次元――売れた、売れなかったで商売を見る
一番単純なのは、「売上が上がった」「売上が下がった」という見方です。あるいは、「この商品は良い」「この商品は悪い」という見方です。
一本の軸だけで物事を判断しています。
売上が上がったから成功。売上が下がったから失敗。良い商品だから売れる。悪い商品だから売れない。
非常に分かりやすいのですが、実際の商売はそんなに単純ではありません。
売上が30%伸びていても、広告費が倍になっているかもしれません。売上が横ばいでも、利益率が大幅に改善しているかもしれません。売上が少し下がっていても、利益の出ない顧客から撤退した結果かもしれません。
売上だけでは、事業の状態は分かりません。
ここが一次元です。
売上が上がる、売上が下がる。実際はそんな現象は存在しません。
二次元――利益と「なぜ稼げるのか」を見る
次に見るべきなのが利益です。
売上1億円で利益100万円の会社と、売上5,000万円で利益1,000万円の会社。どちらも売上だけを見れば前者の方が大きな会社ですが、事業の構造はまったく違います。
ここで重要になるのが、先ほどの3つの強みです。
なぜ利益を生み出せているのか。他社よりたくさん売れるからなのか。他社より高く売れるからなのか。他社より低コストで提供できるからなのか。
売上という「結果」だけではなく、その数字を生み出している構造を見る。ここから商売が二次元になっていきます。
そして経営者だけではなく、メンバーも「うちの会社は、どこが強い会社なのか」を理解していることが非常に重要だと思っています。
また、基本的には「儲かる」というのは「儲からない」に向かう過程の出来事でもあるので、(一時的に)利益が出ていることを良しとするのは必ずしもいいことではありません。
三次元――他社とマーケットを見る。これがマーケティング
しかし、自社の利益構造だけを見てもまだ足りません。
商売には必ず相手がいます。顧客がいて、競合がいて、市場があります。
ここで必要になるのがマーケティングです。
僕はマーケティングを、単なる広告やSNS運用のことだとは考えていません。
誰が顧客なのか。顧客は何を求めているのか。競合にはどんな選択肢があるのか。自社は他社と何が違うのか。市場は拡大しているのか、縮小しているのか。顧客が商品を選ぶ基準は何なのか。
こうしたことを理解するのがマーケティングです。
つまり、自社だけを見ていた商売に、「他社との比較」と「マーケット」という軸が加わります。
ここで商売は三次元になります。
たとえば自社では「この商品は品質が高い」と思っている。しかし顧客が求めているのは品質ではなく、納期かもしれません。
自社では「低価格なのが強みだ」と思っている。しかし競合も同じ価格帯で、さらに知名度が高いかもしれません。
反対に、自分たちにとっては当たり前だったことが、競合と比較すると非常に珍しい強みだった、ということもあります。
強みは、自社だけを眺めていても分かりません。マーケットの中に置くことで、初めてその価値が分かります。
四次元――その戦い方は、自社の強みと合っているか
そして僕が一番重要だと思っているのが、その次です。
市場を理解した。競合も理解した。顧客も理解した。
ここまではマーケティングです。
しかし、そのマーケットで選んだ戦い方が、「自社の本当の強みと整合しているのか」まで考える必要があります。
ここが四次元です。
たとえば、他社より高く売れることが強みの会社が、価格競争に参加している。本来は低コストで提供できる会社なのに、高級ブランドとして戦おうとしている。圧倒的な販売力を持つ会社なのに、少数顧客向けの極端にニッチな戦略を取っている。
これでは、せっかく強みを持っていても、その力を十分に発揮できません。
逆に、「たくさん売る」が強みなら、大きな市場を狙う。「高く売る」が強みなら、価格以外の価値を求める顧客を狙う。「安く提供する」が強みなら、効率や規模が競争力になる市場を狙う。
マーケットと自社の強みが噛み合ったとき、事業は非常に強くなります。
マーケティングとは、単に「売れる場所を探すこと」ではありません。
それをし続けるのは「儲からない」という事象に向かって絶えず走り続けているだけです。
自社の強みが最も活きる市場と戦い方を見つけること。
ここまで考えて初めて、経営とマーケティングがつながるのだと思います。
もっと言えばなぜ、自社の強みと適合しない事業を始めてしまうところまでいってしまったのかを考えてみてください。
そこにきっと事業の成長を妨げている要因があるはずです。

売上より利益、利益より事業価値
だから僕は、売上 < 利益 < 事業価値だと考えています。
売上は結果です。利益を見ると、その事業の構造が少し見えてきます。
しかし事業価値を見るには、さらに多くのことを考える必要があります。
他社より優れた強みがあるか。その強みを組織として理解しているか。マーケットに需要があるか。顧客にその価値が伝わっているか。その市場で競争優位を作れているか。
そして何より、今選んでいる戦い方が、自社の強みと一致しているか。
これらが積み重なって、事業価値になっていくのだと思います。
経営者の嗜好も無視できない
もう一つ面白いのが、どの強みを選ぶかには経営者の嗜好も大きく影響することです。
大きな組織を作り、たくさん売りたい経営者もいます。少人数で高単価の商品を提供したい経営者もいます。徹底的に効率化し、低コストで勝ちたい経営者もいます。
どれが正しいというものではありません。
ただし、経営者が作りたい会社、会社が実際に持っている強み、マーケットで求められているもの。この3つがバラバラでは、事業はなかなか成長しません。
「自分はこういう商売がしたい」という経営者の意思も含めて、どの強みを磨くのか。どの市場で戦うのか。どういうビジネスモデルを選ぶのか。
それを決めていく必要があります。
事業を見る解像度を上げる
売上が上がった。売上が下がった。商品が良い。商品が悪い。
それだけで商売を考えるのが一次元。
利益と、その利益を生み出している3つの強みを見るのが二次元。
競合、顧客、マーケットとの比較まで含めて考えるのが三次元。
そして、マーケットでの戦い方と、自社が持つ強みが本当に一致しているのかまで考えるのが四次元です。
細かいビジネスモデルは無数にあります。
しかし、「他社よりたくさん売れる」「他社より高く売れる」「他社より安く提供できる」という3つのどこに自社の強みがあるのか。
それを理解し、メンバーで共有する。マーケットを理解する。そして、その強みが最大限に活きる場所で戦う。
そこまで設計できている会社は、単に「今売れている会社」ではなく、成長する理由を持った会社になっていくのではないでしょうか。
さいごに
強みを崩しても、売上はすぐには下がらない――スターバックスの例
抽象的な表現が続いてしまったので実例を用いた話をひとつさせてください。
自社の強みと戦い方の整合性を考えるうえで、分かりやすい例のひとつが2000年代のスターバックスです。
スターバックスは急速に店舗数を増やし、世界的なチェーンへと成長していきました。実際、売上は大きく伸びています。2004年度に約53億ドルだった売上高は、2007年度には約94億ドル、2008年度には約104億ドルまで拡大しました。2008年度だけを見ても、前年比で約10%の増収です。
売上だけを見れば、「順調に成長している会社」に見えます。
しかし、その裏側では別のことが起きていました。
創業者のハワード・シュルツは2007年、急速な成長と規模拡大のために行ってきたさまざまな効率化が、結果として「スターバックス体験」を薄めてしまったという危機感を社内で示しています。エスプレッソマシンの自動化、効率を重視した店舗設計など、一つひとつは店舗運営を効率化し、大量出店するためには合理的な判断でした。しかし、それらの積み重ねによって、バリスタとのやり取り、コーヒーの香り、店舗ごとの温かさといった、スターバックスらしい体験が失われつつあったと指摘されました。
今回の3つの強みで考えるなら、スターバックスは単純に「たくさんコーヒーを売れる会社」だったわけではありません。
むしろ、コーヒーそのものに加えて、店舗空間、バリスタとのコミュニケーション、ブランド、いわゆる「第三の場所」としての体験によって、一般的なコーヒーより高い価格でも選んでもらえることが大きな強みでした。
つまり、「高く売れる」ことを支えていた体験こそが、スターバックスの重要な事業資産だったと考えることができます。
ところが、さらに「たくさん売る」ために店舗数と効率を追求すると、「高く売れる理由」そのものを少しずつ削ってしまう。
ここに、自社の強みと成長戦略のズレが生まれます。
そして、この事例で特に面白いのは、強みを崩し始めたからといって、売上がすぐに下がるわけではないことです。
2008年度のスターバックスは売上高そのものは約10%増えています。しかし既存店売上高は全体で3%減、米国では5%減でした。それでも新規出店によって会社全体の売上は増えています。一方、営業利益は前年の約10.5億ドルから約5.0億ドルへ大きく減少しました。
ここは非常に重要です。
売上は、事業価値の変化より遅れて動くことがあります。
店舗を増やせば、その瞬間は売上を増やせます。広告費を増やせば、一時的に顧客を増やせることもあります。値引きをすれば、販売数量を増やせるかもしれません。
だからこそ、強みを崩すような経営判断をしていても、最初の数字だけを見ると「成功した」ように見えることがあります。
むしろ厄介なのは、間違った戦略ほど、短期的には売上という形で正解に見えてしまう場合があることです。
売上が増えているから、この方向で正しい。
もっと店舗を増やそう。
もっと効率化しよう。
もっと同じことを繰り返そう。
そうしてアクセルを踏み続けた先で初めて、既存顧客が離れている、利益率が落ちている、ブランドが弱くなっている、といった問題が数字として現れます。
2008年にCEOへ復帰したシュルツは、スターバックスを再び顧客体験やコーヒーそのものへ集中させる方向へ舵を切りました。その象徴的な施策として、米国内約7,100店舗を一時閉店し、13万5,000人を超える従業員にエスプレッソの再トレーニングを実施しています。スターバックス自身も、この取り組みを顧客体験を立て直し、コーヒーという「コア」へ回帰するためのものと位置づけていました。
この事例から学べるのは、「店舗を増やしてはいけない」「効率化してはいけない」ということではありません。
重要なのは、その成長方法が、自社の強みを強化しているのか、それとも消費しているのかです。
売上が増えたかどうかだけでは、それは判断できません。
むしろ、
売上は増えた。しかし、自社が選ばれる理由は以前より強くなったのか。
と考える必要があります。
これが、僕が「売上 < 利益 < 事業価値」と考える理由のひとつです。
売上が伸びていても、利益を生み出す構造や競争優位が弱くなっていれば、事業価値は下がっているかもしれません。
逆に、目先の売上を少し犠牲にしてでも、自社の強みを磨き、将来も選ばれる理由を作っているのであれば、事業価値は高まっているかもしれません。
「売上が上がったから正しい」という一次元の判断では、この違いは見えません。
だからこそ、経営では売上のさらに奥にある「自社は何によって選ばれているのか」を理解しておく必要があるのだと思います。


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